今月の「畑のつぶやき」
5月の風景
我が家とその周りの畑は、標高1000メートルの場所にあります。ここは、湧き水も豊富なところで、目の前にある貯水池の透明度も抜群です。魚が泳いでいる姿がみえるくらいきれいです。田んぼにも水が入りました。田んぼに水が満たされて、5月の強い日差しとさわやかな風に水面が波打ってキラキラ光る風景は、毎年のことながら、とても美しいですね。春は、農業を営んでいけることの幸せを感じます。今期も、心と体が元気になるような野菜たちをお届けできるようがんばります。どうぞよろしくお願い申し上げます。
「ちいさな畑セット」の出荷がはじまります
野菜の生育も順調です。出荷再開日については、「出荷日のご確認」を郵送しております。
今年は、スタッフが2名になり、研修生2名、総勢6名でやっていきます。お手元に届いた野菜の様子などでお気づきの点などございましたら、どうぞご連絡ください。
昨年度、大根にスが入りやすい、というご意見をうかがいました。栽培方法や肥料の問題は今の状況では考えにくいので、もしかしたら配送中の問題かもしれません。今年度は大根をポリ袋に入れて出荷しようと思っています。今までも、泥つきのまま箱に入れていたので申し訳ないとおもっていたのですが、ほかの農家さんから購入した野菜セットの大根がポリ袋に入っていて、3日くらい葉っぱもきれいな状態でした。これで改善できればいいのですが、みなさんからのご感想お聞かせ下さい。
昨年、お客様から「野菜は毎週ほしいのだが、中セット毎週だとちょっと余ってしまうので、中セットと小セットを交互に送ってもらうことは可能ですか?」というご質問があり、対応させていただきました。私たちがまったく気がつかなくて「なるほど!そういう手もあったかー!」と、とてもありがたいご提案でした。もし他にも、お客さんが来るので次回だけセットの大きさを変えてほしい、田舎からじゃがいもがどっさり届いたのでジャガイモ以外の野菜に変えて欲しい、などのご要望がありましたら、どうぞお知らせ下さい。
新規の野菜セットのご紹介もとてもありがたいです。お客様の口コミというのは、こちらも安心して出荷ができます。
放射能検査について
昨年の放射能検査では作物は不検出でした。今期も、作物ができ次第検査してお知らせいたします。検査機関の方の話では、スーパーで売っている外国産のカシューナッツなどから、基準値以下ですがセシウムが検出されたそうです。肥料でも、国産の肥料に気を遣っていた
ら、意外と外国産の椰子殻の灰(カリウム肥料)が一番数値が高かったという報告もあります。(うちでは使用していません)南洋ではいまだに核実験の影響が残っているそうです。「東北だから危険」とか「南だから安心」ではなく、検査結果をもとに科学的な事実で判断しなければならないようです。(N)
挑戦!
昨年自立した元研修生のМさんが、今期はうちのスタッフとして活躍していただくことに。Мさんは僕の一難ダメな部分、「だらしなさ」をカバーしてくれています。ありがたい。管理する面積は、荒地7反(2,100坪)を新たに借りたこともあり、2.8haから4haに。かつてない規模。40歳を過ぎて結構な挑戦です。ふっふっふ、楽しみだー! なにしろ毎日、挑戦精神の刺激を受けています。うちに研修に来てくれる方はみんな人生を賭けて挑戦しているからです。
僕と同い年のISさん。二人の子持ち。2年目の研修に入りました。「この苗の症状、三日以内に何とかしてあげないとまずい症状なんだけど、何だと思う?」「・・・、う~ん、マンガン欠乏ですかね。」「あたり!」という感じで、さすがの2年目。誠実な人柄、努力と根性の姿勢はきっと愛される農家になるはずです。伸びしろを感じます。43歳IWさん。4人の子持ち。穏やかな人柄と勉強熱心さはすごいものがあります。農作業の合間のお茶タイムでミニ勉強会をやるのですが、びっしりのメモ書きのスケッチブックを一ヶ月で一冊使ってしまう熱心さ。奥様が仕事の関係で東京とこちらの往復生活でがんばっておられ、ご自身は二人の子どもの面倒と研修を両立しているというド根性生活。絶対に軌道に乗ってもらえるよう、僕も渾身の力を注ぎます。
新しい品種にもチャレンジします。ジャガイモは「とうや」という品種を取り入れます。極早生のわりにおいしい味です。久々に赤皮のアンデスレッドも。サツマイモはパープルスウィートロードという紫芋と、なると金時を。どちらも甘いです。11年ぶりのミニトマトは赤、オレンジ、イエローの3種を。中玉、大玉を含め5種類に挑戦です。冬にたくさん勉強できたので、栽培方法もさらに磨きをかけます。土の亜鉛と銅に注目しました。ご期待下さい。(N)
新生活
4月から、3人の子どもはそれぞれ中学生、小学生、保育園児となりました。それぞれから配られてくるプリントに混乱しながらも、新しい生活にもだいぶ慣れてきました。
長女の保育園は車で送っていくのですが、バスタオルぐらいの大きさのお気に入りの毛布をかぶっていきます。車の中でもずっと毛布をかぶったまま。頭は垂れて下を向き、逮捕された人のようにおとなしくなっていました。駐車場から歩いていくときも、毛布はぜったい離さず、手錠をかけられた人がマスコミのフラッシュをさけるように、私に連れられて歩いていきます。教室の前では、とても優しい担任の先生が、毛布の中で娘と会話し、やっと教室に入るということを2週間くらい続けていました(笑)。先生ありがとうございました。(S)
今期もありがとうございました!
今期の「ちいさな畑セット」の出荷は、3月第一週目の3/5出荷が最終となります。一旦お休みをいただいて、6月から再開致します。野菜の種類がいちばん少なくなってしまう時期ですので、ご迷惑おかけいたしますが、ご理解頂きたく、よろしくお願い申し上げます。
今期の肥料は、震災前にすべて納品済みだったので、心配はありませんでした。これから使う肥料については、充分検討して慎重に判断していくつもりです。幸い、今まで購入していた肥料屋さんは、とても良心的な方で、商売人というより研究者です。震災直後にトラックで被災地に救援物資を運んでしまう熱い方です。草木灰が土壌改良資材として畑に使われることがありますが、いろんな検査をする中で、太平洋沿いにある外国のヤシの実を原料にした灰が、意外にも高めの放射能数値がでたそうです。太平洋沖で行われた核実験の影響なのでしょうか。こうなってくると、なにが安心なのかわからなくなってきますが、いろいろな検査と情報をもとに、憶測や誤認に振り回されることなく、情報提供していきたいと思います。
私たちの後に農業をはじめたSさん家族が、冬場の仕事を見学させてほしいと訪ねてきました。Sさんは、たくさんの壁にあたっていて悩んでいましたが、私たちも10年前にまったく同じ悩みをかかえていました。
思い返せば、私たちが初めて自分の力で借りられた土地は、狭かったり、半分日影になっていたり、水が出てシケっていたり、荒れてしまってアチコチ木が生えていたり、条件の悪い土地が多くありました。まずは木を切って根っこを掘りあげることからはじめ、水が出る畑は、毎年ミゾを掘って水はけをよくしました。毎年苦労の連続でしたが、農業をはじめたばかりの技術のない私たちにとっては、それでよかったのだと思います。それでも、何年もやって、きちんと出荷できるような野菜を作っていると、まわりの農家さんは、ちゃんと見てくれています。そのうち、日なたの広い土地も貸していただけるようになります。自分たちの意見にも、耳をかたむけてくれるようになります。今では、農業の政策について、町や県からの依頼や相談を持ちかけられることも増えました。
来期も、自分たちの足元をしっかり見つめ、種をまきます。種まきは、3月10日ごろから始まります。外はまだまだ氷点下になる寒さなので、温床の中で育てます。野菜によって生育期間が違うので、6月に始まる出荷に合わせて、逆算して種をまいていきます。6月には、10種類以上のピカピカの野菜をお届けできるようにがんばります。
自分の中の鬼
豆まきをしました。ティッシュの空き箱を使って、鬼のお面をつくりました。箱が1枚になるように平らにします。ティッシュを取り出す部分のビニールを取って、そこがちょうど目の位置にぴったりになるように、鬼の絵をかきます。パンツのゴムでわっかを作り、そこに赤いスズランテープを結びつけていきます。わっかは、首の部分にかぶり、赤いテープは膝くらいの長さにします。秋田の"なまはげ"のイメージで作りました。
夕ごはんを食べ終わって、子どもたちが2階で遊び始めた頃を見計らって、鬼がやってきます。「鬼が来たぞー!」という声が聞こえると、子どもたちは嬉々としておりてきて、豆をぶつけはじめます。大きくなったお兄ちゃんたちは、そのうちに鬼にプロレス技をかけはじめ、「もう帰るぞー」となかば弱気になった鬼をなかなか帰してくれません。そこで鬼が、「よーし、みんな連れて行くぞー」とすごみをきかせると、最初は笑顔で豆を投げていた娘が急に大声で泣き出しました。そこで、私が「お父さんに鬼が乗り移っちゃったんだんだよ。がんばって豆を投げて、鬼を追い出そう!」とさらに盛り上げ(!?)、娘は大泣きしながら豆をぶつけました。
やっとのことでお父さんから鬼を追い出したと思ったら、今度はお兄ちゃんに乗り移り、お兄ちゃんの「朝眠い鬼」「忘れ物鬼」を追い出し、長い節分の夜が終わりました。私も、自分の中にある鬼を追い払って(またすぐ来るんでしょうけど)、心機一転、ちょっと爽やかな気分になりました。来年は、お母さんの中にはどんな鬼がいるか、家族に聞いてみようかな...。「オニババがいる」と言われそうですが...。
おひとりさま
この4月に一番下の娘(3才)が保育園に入ります。3年間、長かった~。成長するにつれ、遊びにつきあう時間が増え、保育園に入れようか悩みましたが、震災後、給食の食材なども不安に思い、やはり家でみることにしました。春からは、保育園に行っている間に子どもに邪魔されることなく仕事ができるって爽快だろうなぁ、と夢見ています。
3人目はこんなんですが、最初の子を保育園に出すときには、私の方がつらくて、恋人と離れ離れになってしまうようにせつなく、給食のプリントを眺めながら、「今、彼はご飯を食べているのかなー。私も同じものお昼に作ろっかなー」と、恋は盲目状態のほとんど危ない母でした。最初の子は、ほんとにかわいくて、このままずっとかわいかったら、大変なことになってしまうのではないかと、本気で心配になる始末...。親バカもここまでくると、どうしようもないですね。
その長男も、4月には中学へあがります。もうすぐ、私の誕生日があるのですが、「今年のお母さんの誕生日は何にしてもらおうかなー?」と独り言のようにつぶやいていると、長男が「おひとりさま旅行は?」と提案してくれてびっくり!
娘が生まれてから3年間、朝昼晩、寝る時もほとんど一緒。娘の食べこぼしを気にせず、ゆっくり食事ができ、兄弟ゲンカにイライラすることもなく、寝言や寝返りに起こされることなく、ひとりの布団で寝られるなんて!! ばら色の妄想がふくらんで、自然と顔がほころんでしまいます。そして、妄想だけでもけっこう満足してしまう私なのです...。
ひとり目の子育ては何かと大変だけど、そんな嬉しいことを言ってくれるまでに成長したんだなーとしみじみ感じ入ってしまいました。休みのない子育ては大変だけど、これで1年間オニババを追い払える...かな?(S)
瞬発力と助走距離
僕には軍師と呼べるアドバイザーがいる。義理の弟のD君。口数の少ない彼は、長年うちのスタッフとしてこの農場を支えてくれている。
D君の思考力はハンパではない。それは勉強ができるとか、そういうことではない。どんなに足の早い人もチーターにはかなわないし、計算や記憶力がすごい人もコンピューターにはかなわない。人間が他の動物や機械にかなうものは思考力だけではないかとも思うのだが、彼はまさにそこがすごい。
ある時は玉ねぎを植えながら、ある時はまき割りをしながら、僕は彼に「こういう場合ってどうやって考えたらいいんだろ。」と相談している。もっぱら彼に相談するのはどう考えればいいのかという「思考方法」だ。
思考方法という抽象的なことだし、言葉が苦手な彼なので、話を聞いても、最初は「訳がわからん」状態が続く。しかし、ここで急いで結論を出さず、「わからないままとっておく。」というのが彼との会話のコツだ。訳のわからん話がいくつもでると見えてくることがあるから不思議だ。「あ、それって、去年の8月頃、ネギの草とりをしている時に交わした会話につながらない?」「そうそう、その話を一歩進めるとそうなると思うんですよ。」という感じで、彼との会話は、日数どころか、年月を超えて記憶しておくとじつに深い会話になることができる。
最近、彼が教えてくれたことに「瞬発力と助走距離」という話があった。彼の言葉は一見、訳がわからんので、以下彼のせりふは僕なりに翻訳しました。
「思いがけない事態に陥ったとき、物凄い素早さの判断力と行動でピンチを乗り切ってしまう人がいる。一見すると、素晴らしい瞬発力を持った人だなあと感心してしまうが、実はこれが瞬発力ではなくずいぶん前から、いろんなことを考えていて(それは具体的なレベルではないかもしれないが)、いざ何かが起きたとき、その思考していた充分な助走距離のおかげで、瞬時に物凄いジャンプができるということ。周りから見るとジャンプしたシーンしか見ていないから瞬発力のように見えるが、注目すべきは、その人の準備してきた助走距離なのではないか。」という内容。
僕は尋ねる。「でもさ、いろいろ考えてみたけど、それをも超える、いわゆる「想定外」のことが起きちゃったらどうしようもないってこと?)」「いや、準備というのはすべてのケースを想定するということではなくて、考えて、考えて、それでも『自分にはわからない部分がある』という謙虚さをもっている、というのも助走距離の大切な部分だと思うんです。」
うーん、そういうものなの? 「農業って、天候とか売り先とか不確定要素の塊だと思うんですよね。特に有機栽培だと。紀行さん(僕のことです)だって、作物がだめになったとき、瞬時に物凄い量の対策案を出して、速攻で対処するじゃないですか。あれって、瞬発力じゃなくて、普段から言葉化できないイメージとしての思考の部分で、物凄く考えているからできるんですよ。」ほうほう、そんなもんなのか?ってことは、震災で原発がドカンとなってしまったとき、電力会社はしきりに「想定外」って言葉を連発していたけど、それって愚の骨頂ってことじゃない。「そう、すべてを想定することはできないって謙虚なスタンスでいたら、あの場合において「想定外」という概念すら持たないはずなんです。そしてもっと助走距離を作れていたはずなんです。もっとましな結果になっていたと思うんです。」
震災が起きた直後、東京で食品の買占めが起きて、買い物パニックが起きた。野菜やお米を送って欲しいとのお問い合わせもありました。3月だったので出荷がお休みに入っていて、残っているものは自家用分の限られたものしかない。お米も前年の猛暑による不作で、売り切れ状態。我が家の分もおぼつかない状態だった。あるお客さんから「こんなときに本当に申し訳ないんですけど、お米を5キロでいいから送ってもらえませんか。」と電話をいただいた。その方は、お米の備蓄がなくて困っている方たちに、おにぎりを作って配っているということだった。「我が家のことのみ考えている場合ではない!」即座にお米を出荷した。ジャガイモなどの貯蔵品も、あるものは出した。我が家のお米は、パニックが落ち着いたら、どこかで買えばいいのだから。でも、僕は立派な人ではないのです。実はこれは師匠のおかげなのです。
僕が農業の研修中に、師匠が「直接消費者に作物を送る形をとるのなら、農家は消費者がいざ何かあったとき疎開先になる覚悟をもたなければならない。」とおっしゃっていた。僕はこんなことまで考えて農業をしている人がいるのだと、物凄く感動した。その言葉が僕の思考に入っていて、僕に長い助走距離を与えてくれたのだと思う。13年前のあの師匠の言葉がなければ、今回のことも行動をとることができなかった。あのとき、僕は本当の意味で師匠の言葉を理解してはいなかったけれど、ぎりぎり「わからないけどとっておく」ことをしておいて正解だったのだろう。D君との会話もそうだが「わかった気になる」くらいなら「わからない状態でとっておく」方がよいのだろう。疎開先になるまでの力が現在のうちの農場にはとてもないけれども、そのことを忘れずに農場の今後の形を考えなければならないのかもしれない。
師匠が僕に与えてくれた、他の言葉を思い返してみた。「食糧危機は間違いなくきますよ。問題は来るか来ないかというレベルではない。いつ来るかでしかない。」「食料の自給、エネルギーの自給。」これは研修時代からさんざん聞いていましたが、昨年は「福祉の自給」ともおっしゃっていました。TPP、世界経済の不穏さなどこれから僕らを取り巻くものは予想もできないことだけど、考えて考えて、(他者の思考を勉強させてもらうのも含む)それでもわからない部分をきちんと認識して助走距離をつくる。あとはどこで飛ぶかの決断力を養うしかないのだろう。
「そうかあ。師匠はすごい助走距離をくれたんだなあ。」と僕はしきりと感慨にふけっていたら、D君に言われた。「いや、実は師匠がくれた助走距離のずっと前、小学生とかのころから紀行さんはもう助走しているんですよ。その走行ライン上に師匠の言葉があって、さらに後押ししてくれた形なんですよ。紀行さんはいつも、俺にヒントをもらったって言うけど、俺のこんなわけのわからない役にも立たない話を理解するのは、ずっと前から思考の助走をしているからだと思います。」またもやよくわかんないや。とりあえずわからないままとっておこう。2年後くらいに、「2年前の冬に、漬け物作業しながらした会話って、もしかしてこういうこと?」「そうそう、そんな感じです。」ってやりとりを楽しみに・・・・。(N)
今年は、大きな震災、原発事故があり、1年が長く感じられました。そして、今もなお、放射能の危険にさらされています。人智を超えるものに向かう、人の欲望は止められないのでしょうか? 放射能という危険なものにまで無理やり希望をみいだして、進み続けなければ生きられない動物なのでしょうか?
「世界は分けてもわからない」(福岡伸一著 講談社)という本に、興味深い話がありました。生物は、元々たった一つの細胞(受精卵)が細胞分裂を繰り返していきますが、どの細胞がどの部位になるのかというのは、全く決まっていないそうです。では、どうやって決まるのかというと、「『君が皮膚の細胞になるのなら、僕は内蔵の細胞になるよ』『君が内臓の細胞になるのなら、僕は皮膚の細胞になるよ』といった双方の細胞の交信」が行われ、細胞は「自分の周りの空気を読んで自分のありかたを決めていた」そうです。だから、バラバラにされてまわりの空気がなくなってしまうと、その細胞は「自分を見失って死んでしまう」か、「何になるべきか自分を見失ったまま、分裂することだけはやめない、そのような細胞となった」そうです。細胞は、自分がなるべきものになった時、自分で細胞分裂をストップさせるそうです。それができなくなって、増殖し続けるのが、ガン細胞。まるで止めることのできなくなった人間の欲望のようです。
原発事故で土や海が汚染されたことは、本能の部分にダメージを受けた気がします。魚は大丈夫だろうか、肉は?、卵は?...今まで買っていたものに疑いの目を向けなければならないストレス。だんだんと疑っている自分が嫌になってきました。今までの価値観がひっくり返されてしまうほどの事故でした。そこに夏バテも加わり、子どものスポーツ少年団の送り迎えが週3回。食欲がないときにも料理を作らなければならないのは辛いところですよね。子どもにだけはちゃんと食べさせなくてはと思い、食事の用意はするものの、自分が食べる時間はゆっくりとれず、忙しさから食べ物を受けつけられないこともありました。育ち盛りの子どもが学校に行っている間の昼食は、ただおなかが満たされればいい...。毎日1キロ以上のお米を炊いていたし(5キロのお米が4日でなくなります)、そんなにひどい食事だとは思っていなかったのですが、農家のくせに野菜不足になっていたんですね。ひさしぶりに作った野菜たくさんのおかずを食べたとき、体のすみずみまで野菜のエネルギーがいきわたるような感覚があり、心も軽くなりました。「食事は基本」ということが身にしみた年でした。来年は、食事と睡眠、そして特効薬の家族や仲間との会話をもう一度見直そうと思います。そして、ちいさな規模で、きちんとした仕事をしたいと思っています。
不明な点はどうぞ疑問を投げかけてください。忙しい時期や時間によってはあまり時間がとれないかもしれませんが、事前にご相談いただければ見学も受け付けています。
先月の「畑のつぶやき11月号」を発行した後、たくさんのメッセージをいただきました。どのメッセージにも心を打たれました。みんなで共有できたらと思い、以下にご紹介させていただきます。こんな方々とのつながりがあって、本当に私たちは幸せだと思います。(S)
「今回、放射能についてのご報告。未曾有の原発大事故に、誠意ある対応いただきまして本当に感謝しております。涙が出ました。私たち消費する者、大切に育てた野菜を分けて頂くだけのものに何か出来ることはないか??答えが出ません・・・けど、メールせずにいられませんでした。」
「のらくら農場との縁があって本当に良かった。だって信じて送ってくれるのを嬉しい気持ちでいただけば良いんだから!!」
「放射線の結果、ひとまず安心できるレベルでよかったです。ありがとうございました。今回の萩原さんのような放射線についての行動は、消費者の農薬など他の危険物質に対するスタンスの変化にもつながることだと思います。福島の原発事故は、間違いなく転んでもタダで起きちゃダメです。一気に全部ひっくり返すつもりで向き合わないと。絶好のチャンスと私は思ってます。」
「検査結果をみて安心しましたし、萩原さんが考えていらっしゃることもよくわかりました。結果は大丈夫だろうと思っていましたが、目に見える形で教えていただけるとより安心できますね。そして何より、萩原さんが放射能の問題に対して、国が大丈夫と言っているからという理由で何もしないのではなく、ご自分できちんと向き合おうとされていることが、一番安心できます。」
「<ぷらすレシピ>が嬉しいです。安心・安全を真剣に考えていただき、ありがとうございます。」
「・・・表示販売が始まり、検査結果が13と15だったら人は13を買うようになるのか・・・。子供のためには低い方がよいに決まっています。でもそれってどうなんだろう・・・。先日テレビでカタログハウスがすべての野菜を測って売っていると出ていましたが、20ベクレル以下で表示は統一していました。そうじゃないと、数値の小さいほうから買うようなことになりますよね。どうしたって。段々と、数値偽装なんて出てくるでしょうね。結局のところ。だから数値については、非常に複雑な問題があることを知っているべきですね。あくまでも目安です。機械によっても、畑の場所によっても、違うのです。だから絶対視するとおかしくなる。そのことを消費者には分かっていてほしいし、生産者もだから、隠さないでほしいし、その関係がうまくいけばいいなあと思います。バランス感覚。でもこんな風になってしまったこと自体がほんとにゆゆしき問題です。「それでも種をまこう」という会合がこの間ありましたが、消費者以上に、外で働く農業者の被ばく量が圧倒的に大きいことを消費者も知ってほしいなと思います。そして、それでも不屈の魂で研究を重ねている各地の農業者のことを思い、本当に涙が出ることがあります。農業者の不屈の魂に感動して。」
放射能検査費用の寄付金のお申し出もあり、本当にありがとうございます。今回検査をお願いした「C-ラボ(市民の測定室)」ではボランティアさんの無償のがんばりで、検査が安くできています。多額の放射能測定器購入費用がかかっています。うちよりもそちらの方へご寄付していただければ幸いです。
寄付金の振込先は、郵便振替口座:00800-5-198573
口座名:未来につなげる・東海ネット 市民放射能測定センター 銀行からの振込先は、
店名:〇八九店 預金種目:当座 口座番号:0198573 です。
放射線について
日頃よりのらくら農場の野菜、お米、加工品にお付き合いいただき、ありがとうございます。放射線について皆様不安を抱えていらっしゃることと思います。お客様からの質問・お問い合わせなどもありましたので、ちょっと長くなりますが、詳しい今までの経緯と現在の状況、今後の姿勢をお知らせしようと思います。
<今までの経緯>
原発事故後、県の改良普及所や、その他の情報を集めて判断してまいりました。長野県の調査では、事故直後を除いて検出限界20ベクレルの調査で、長野県の作物からは不検出が続いていました。県やその他の検査機関に相談しました。のらくら農場の農地は、標高が千メートルと高く、水が集まる県内の低地でも不検出なので、危険なレベルの放射線はこの農場では検出されないだろうとのことでした。近くの有機農家の仲間で、大手の流通に出荷している人が何人もいまして、検査を義務付けされました。検出限界5ベクレルの厳しい検査でも、すべての農産物で不検出でした。検査は、状況を見て判断することにしました。また、本当に必要とされている検査待ちの方を優先した方がよいだろうという気持ちもありました。
民間の検査機関が立ち上がったのを機に、のらくら農場の土や作物を検査することにしました。検査機関は「未来につなげる・東海ネット 市民放射線測定センター」というNPO法人です。企業の利益などとは無縁の、市民による検査機関です。
そちらの検査機関では、いままでかなりの数をこなしてきたそうですが、放射線の土壌から作物への移行というのは、キノコ、お茶を除いて、予想よりも少ないそうです。担当の方は「世の中には冷静な判断をしてほしい。」とおっしゃっていました。「のらくら農場さんの土地ではまず野菜からは検出されませんから、参考に土壌の検査をされた方が良いですよ。ただし、土壌の検査では全くのゼロということはまずありません。大切なのはその数値から作物への移行がどれくらいあるかということです。」とアドバイスいただきました。ただ、お客さんの不安もあると思いまして、土壌と野菜の両方を検査してもらうことにしました。
ガイガーカウンターなどの簡易測定器の計測も考えたのですが、詳しい方からのアドバイスでは、「参考程度にはなりますが、公に発表できるものにはならない。」とのことなので、作物や土の検体検査を選びました。
<現在の状況 野菜について>
11月10日 小松菜の検査(検出限界8. 9ベクレル 検体1㎏あたり)
セシウム137 不検出
セシウム134 不検出
安全性に関しては様々な意見があります。以下は最近手にした本の内容です。これは一つの意見としてご理解ください。
「どれくらい放射線を浴びても平気かということははっきりしています。一年で一ミリシーベルト、それ以外にありません。赤ちゃんも、妊婦さんも同じです。(中略)食品は一キロあたり10ベクレル以下を選ぶ。これは一年間10ベクレルの食品を食べ続けても、年間の食品から受ける放射線量が0.1ミリシーベルトになる数値です。(中略)この考え方は食品の安全を守るときの基本で、一つ一つの基準の10分の一とか100分の一とかにしておいて、合計しても安全な量にするということです。」
「子供を放射能汚染から守り抜く方法」武田邦彦著 主婦と生活社より
一キログラム当たり10ベクレルの食品を一年間食べ続けると、年間で約0.1ミリシーベルトの計算になります。これは国の暫定基準値の20分の一になります。(文部科学省の暫定基準値は野菜・米は1㎏あたり500ベクレル、年間放射線量の合計が20ミリシーベルトです。この数値についての議論はここでは避けます)赤ちゃんや妊婦さんも含めての考えなので上記の数値はこのように厳しい数値になります。
上記の数値はかなり安全性を見越した数値だそうです。ですから、10ベクレル以上の食品が、即危険ということではないですが、これを目安にしたらどうかという一つの考えです。
<現在の状況 土壌について>
先の検査機関の方もおっしゃっていましたが、土壌においては全くのゼロということは考えにくいそうです。そこで、土壌の放射線量が低いことにこしたことはありませんが、作物への移行が問題となります。移行係数というものがある程度は出ています。しかし、これは国内に多数の例があったわけではないので、現在収集しているデータと、海外の文献をもとに作られています。例えば土から稲への移行は最大値で0.1になります。稲から玄米へは、さらに0.3を掛けます。白米へはさらに.0.4を掛けるそうです。つまり稲全体よりは、玄米、さらに白米の方が、放射線量が低いということです。先の検査機関でも、調査した結果、実際には0.1まで出たことはないそうで、低い数値になるそうです。土壌肥料の研究機関では0.00021~0.012くらいで、0.1は原子力災害対策本部の「移行の指標」として提示した数値だそうです。
キャベツは0.0078、ジャガイモは0.067というデータがとれています。米よりも低いですが、野菜は個々のデータが不足しているため、現在のところ安全を見越して最大値0.1としています。
10月31日 土壌の検査結果 (検出限界8. 9ベクレル 検体1㎏あたり)
セシウム137 9. 23ベクレル
セシウム134 10. 02ベクレル
今回の土のサンプルは斜面の畑の一番下の土です。耕耘すると放射線が低く出るとのことで、5月から耕耘していない土の表層5センチの土を採取しました。つまり、もっとも放射線が出やすい土です。僕としては風評被害よりも、お客さんの安全性を優先したいので、一番危険と思われる土をあえてサンプリングしました。
この数値をどう見るのかです。検査機関の方のご意見をいただきました。「かなり低い数値です。厳しく見ても安全な数値と言えます。作物への移行は検出限界5ベクレルの検査をしても検出されないでしょう。」とのことでした。自分としても、まずはほっとできた数値でした。
繰り返しますが、この問題は不確定要素が多いです。すべての作物や土を検査できるわけではありません。また、粘土質や火山灰土などの土の性質、カリウムの量、有機質の量(有機農業の土の方が、放射線が作物に移行しにくいそうです)などでも移行係数がかわってきます。土の比重、検査仕方などでも変わります。
これをどうとらえるか。僕は土の分析を自分で12年間やってきました。この分析や肥料設計も実はすべてが正確ではなく、不確定要素が多いものです。では、まったく手が付けられないのかと言えばそうでもありません。わずかな手がかりをヒントに土壌の状態をある程度は把握できます。この思考方法と今回の件は似ている気がします。ポイントは「一つにとわられず、総合的に考える。」です。
<どう考えるか>
まずは全体像を考えたいと思います。セシウムに関しては1960年代以降、大気圏核実験を機に微量ながら地球全体に広がっています。放射線に関して「完璧な安全性」というのは、もはや求めることができません。(検査機関の方のお話だと、高知県などでも土からは10ベクレル程度のセシウムが検出されるそうです)検査にしても、すべての個所の測定というのも物理的にも不可能なので、検査結果も「その数値=のらくら農場約9000坪の農地・農産物すべて」にはなりえません。(今回、検査に出したのは、畑の中でも放射性物質がたまりやすいと思われる場所の土と、アブラナ科の小松菜にしました。)不検出=ゼロということでもありません。また、食品に関して言えば、体への危険という点では、放射線のほかにも、大気汚染(ダイオキシンなど)、農薬、硝酸態チッソ、電磁波、化学調味料・保存料、ミネラルの過不足など、多種の作用がかかわってきています。例えば、硝酸態チッソの多い作物を食べ続けると、体内でニトロソアミンという発癌物質を作ります。今回の原発事故によって、放射線以外の危険性というものが世の中から吹き飛んでしまった感がありますが、やはり総合的に考えなければ安全性というのもずれてしまう可能性があります。こういった状況の中で、できうる限り安全で体によいものを提供したいというのが、僕たちの志です。
「何が安全なのか」というのが僕も含めてみんなが知りたいことです。しかし、これは単純な順番付ができない問題です。すべてが不確定要素です。しかし、だからと言って、わかりやすくするためにやたらと単純な構造にして説明しまうのはかえって危険な気がします。
お客さんの中で、小さなお子さんをお持ちの方がいらっしゃいます。また、妊娠中の方もいらっしゃいます。僕たちが作った作物がそのお子さんたちの細胞ひとつひとつをつくることに関与していると思うと、僕たちにとって「他人の子」ではありません。周りの農家さんの作物検査結果、土壌の検査結果、検査機関の方の意見などを総合すると「ご安心ください。」と申し上げても良いとは思っておりますが、今回の事故は前代未聞の事故です。誰もこの事故の影響を明確に予測することはできません。この不確定要素の多い条件の中で、僕は「うちの野菜は完璧に安全です。」と言い切ることはできません。これは僕たちが関西や九州で農場を営んでいても同じです。ですから、このメッセージを送らせていただきます。
僕たちにも3人の子供がいます。子供のためになら命もいらないくらい大切です。この子達のことを一番に考えてどうするか。放射線、大気汚染、農薬、化成肥料、硝酸、ミネラル、栄養素などを総合的に考えて、現在の判断としては、僕たちは、自分の農場の作物を食べさせることを選択して、安心だと考えています。
<これから>
野菜の検査は定期的にしていきます。各関係機関の方からは「そこまで必要ないのでは。」とアドバイスいただきましたが、安心を示すことが今は大切かと思います。検出限界5ベクレルをしたいところですが、混み具合を見て判断します。費用も掛かるので限界はありますが、やれるだけやってみます。また、一軒の農場のデータだけでは、限界があるので、近くの農家の情報も共有したいと思います。肥料も検査をしたものを使用します。今期のものは事故前に袋詰めされ、屋根やシートで覆われたものを使用しました。
10月下旬に群馬県堺の野生のキノコから基準値を超えるセシウムが検出されました。キノコは胞子で成長するため、周りの放射線をかき集める性質らしいです。落ち葉にも集まりやすいようです。風の谷のナウシカという映画があります。人間界を悩ませる猛毒の森「腐海」が実は、世界の汚染の浄化をしてくれていたという話があります。キノコや山は、今、人間界が汚した汚染を一身に引き受けて、ひたすら放射性物質が減るのを待っていてくれている気がします。僕たちはこの自然に何の恩返しができるのか。それを胸に秘めて、作物を作りたいと思います。
のらくら農場 萩原紀行
萩原幸代
放射線の情報
現在、空間はほぼ通常通り、長野県産の米・野菜・果物・牛肉・原乳・茶、すべて不検出です(検出限界20bq)。
先日、軽井沢の一部、雨どいの出口などで1マイクロシーベルトの放射線量が測定されたことを受け、小諸市や上田市でも雨どい出口や側溝、草地の表面などが測定されました。結果は、通常測定している屋上や地上1メートルとほぼ同じで、放射線量がたまりやすいとされる場所でも通常との違いはほとんどなく、安心できる状況でした。
長野県の作物から放射能は検出されていませんが、のらくら農場では、念のため、土壌の検査をしてもらうことにしました。結果がわかり次第、お知らせしたいと思います。
今期、のらくら農場で使用している肥料は、事故前に製造梱包されたものを使用しています。来期使う肥料については、検査済みの安心できるものを求めていくつもりです。今後も、放射線の状況に注意しながら情報をお知らせいたします。
秋の作業
8月から低温が続いていて、秋の野菜がどれも10日以上遅れている。そのわりに初霜が10月の頭にきてしまった。幸い、弱い霜でよかった。白菜がなかなか巻いてこない。各地の自然食流通さんから「出荷できる野菜はありませんか。」との問い合わせが相次いだ。どこも野菜不足だったらしい。遅れてはいるが、生育は結構順調で、どれもしっかりとした生長をしてくれている。これから鍋がおいしい季節。カブや大根、白菜が入った鍋なら僕は毎日食べてもいい。
10月10日あたりからタマネギの植え付けが始まる。今年は4万5千本くらい植える。タマネギは早すぎるとトウ立ちしてしまい、遅すぎると大きくならない。植え付けの適期がこの10日間しかない。苗がすごく良くできた。タマネギの苗つくりは7月から準備が始まる。苗を作る畑に必要な肥料をまく。放線菌という病原菌を駆逐する菌がふくまれている良質の堆肥は欠かせない。土と肥料をよく混和して、まっ平らにならし、透明のポリシートできっちり覆ってしまう。梅雨明けの強烈な太陽光に当てると、シートの下の土は50度以上の高温になる。それを40日以上続ける。すると雑草の種の9割以上は死滅してしまい、草取りの手間が省ける。また、放線菌や納豆菌といった作物の味方になる菌は生き残り、病原菌は熱で死滅する。菌の生息温度帯の差を利用した「太陽熱処理」という方法。タマネギの苗は立ち枯れ病という恐ろしい病気がある。農薬を使わない有機栽培だと、それに打ち勝つ方法が求められる。この処理方法は除草剤も殺菌剤も使わない僕らにとってはかなり有力な方法だ。
タマネギは一本ずつすばやく丁寧に植え付ける。一本の苗から一個のタマネギしかできない。草取りや追肥の管理をしてマイナス15度を下回る気温に耐え、来年の7月に収穫になる。中には寒い冬に霜柱で浮き上がって根が切れてしまい、枯死するものも多い。鹿に踏まれて死んでしまうものもある。ヨトウムシに噛み切られてしまうものもある。お客さんのもとに届くタマネギはそんな過酷な状況を見事生き抜いてくれたタマネギたちです。どうかねぎらってやってください。(シャレじゃないっす)
トマトを片付ける。その跡に1・2月に出荷する寒じめのほうれん草や小松菜を栽培する。今年はトマトが実によく取れた。心で「ありがとう」とつぶやきながら片付ける。難敵の「葉カビ病」を抑えるために納豆菌を葉に散布する試みを6月の畑のつぶやきに書いた。これがすごく効果を発揮した。農薬の殺菌剤ほどには抑えられないが、トマトが生育するには十分なくらいの効果だった。冬の間、菌の生態を勉強し、理論を学んで実際に試し、効果があるとすごく嬉しい。また勉強の冬がやってくる。楽しみだ。(N)
合成の誤謬
なんだか最近,世の中が合成の誤謬(ごびゅう)に覆われてしまっている気がしてならない。一つ一つの論理は一見正しいのだが、積み重なると間違ってしまうという、論理学や経済学で出てくる用語。みんながお金を貯金する→みんなお金がたまる→みんなお金持ち・・・のはずが、経済が回らなくなってみんな貧乏になってしまうというのが、有名な例です。
中学生のとき、社会科の資料集に「ロボット産業が発達して将来は人が労働から解放され余暇を楽しむ社会ができるかもしれない。」と書いてあったのが記憶にある。子供心に「テレビとか見て、ゴロゴロしててロボットが勝手に仕事してくれる世界になるのかぁ~。」とドキドキした。でも、実際は人がいらなくなってリストラの嵐が吹く。雇用不安につながったりする。うまくいかないもんです。
農業機械の発達→農家が重労働から解放される→生活に余裕が生まれる・・・のはずが、生産性が上がりすぎて農産物の価格が下がって結局経営は大変。残るのは機械の借金。
米が余っている→減反で生産調整すれば価格安定→農家の経営安定・・・・のはずが米農家が今一番経営的にきつい状況になっている。
僕がガンガン働いて野菜がよくできたぞ→お父ちゃん家庭で尊敬の的→お母ちゃん「お父ちゃんって素敵!」と言って毎日熱いまなざしで僕を見つめる・・・なんてことがあるほど世の中甘くないのと一緒です。(違うか)
以前、巨大なお弁当工場を視察させていただいたことがあった。格安弁当を作っていた。ベルトコンベアーで運ばれる食材。ラインにたっている人がひたすらコロッケを入れる。僕はそのコロッケを入れている人がリストラになってしまったら、大変だなと思った。コロッケを入れる作業をいくら磨いても、他の職業で役に立たせるのは難しいだろう。このお弁当がかなり売れなくなってきているという。
不景気だ→安い弁当が売れる→規模の経済性を考え巨大製造ラインでコスト削減→経営ばっちり・・・のはずが、大きいがゆえに身動きできなくなってきてしまう。その工場の責任者の方に「萩原さんだったらどんなお弁当製造の形にしますか。」と何気なく聞かれた。「僕だったら数軒のちいさなお弁当屋さんを作ります。」と答えた。中華風とか和風とかいろいろあっていい。ちいさなお弁当屋さんだったらそのスタッフは電話もうけるし、仕入れもする。忙しい時は調理の手伝いもする。そういう経験を積んだ人はコロッケをひたすら詰めている人よりもリストラされても他で通用すると思う.お店も小さいほうが世の中の動きにも小回りがきくと思う。小さいほうがスタッフも経営者意識を持つ。
日本は人口減の社会になる→内需が期待できない→TPPで自由化して他国の需要をかっさらう・・・・という感じでTPP推進の論理が躍動している。僕は完全に「合成の誤謬」の罠にはまってるじゃん!とつっこみたい。僕らは合成の誤謬にはまらないために一流のつっこみ力を身につけなければならないと思う。(N)
放射線の情報
現在、空間はほぼ通常通り、長野県産の米・野菜・果物・牛肉・原乳・茶、すべて不検出です。
のりゆきさん
夫が「オレ、最近眠れないんだよなー」と言う。イノシシ年の夫は、常にまっすぐ前へ進んでいる。ウシ年の私には、そんなに急いでどこ行くつもりなのか、最近は特にわからなくなっている。
夫は、今まで、土作りのこと、肥料のこと、植物のこと、よく勉強してきたと思う。おかげで、10年前と比べたら、野菜の味も、収穫量も、格段に上がった。それでも、まだ先を見つめて、突き進んでいる。まさにイノシシだ。この夏も、農作業が終わって夜になってから、疲れた体にムチ打って勉強会へ出かけて行った。
不眠の理由は何なの?と聞くと、ゴボウの失敗だと言う。今年は、ゴボウの葉っぱがほとんど育っていない。このままだとほとんどダメだろう。かといって、根菜類は初期成育がとても大切なので、今からでは手のほどこしようがない。その原因で唯一思い当たるのが、肥料のまき方だった、と言う。あのまき方が悪かったんじゃないかと思うと、夜も眠れなくなるのだ。
「肥料のまき方が悪かったんなら、来年変えればいいんだから。」と私は言った。夫は、「わかってる、わかってるんだよ、それは。来年がんばればいいって。でも、眠りが浅くなると、頭の中にもう一人の"のりゆきさん"が出てきて、ゴボウに肥料をまいているんだよ。」本人には悪いが、私は笑いが止まらなかった。
農業始めた当初は、それこそ失敗ばかりだった。14年目になる今年は、今のところ、シカにトウモロコシを倒されたのと、ゴボウくらいだ。トウモロコシを倒されたときも、紀行さんは、膝を落としてうなだれていた。私は、その姿を見ながら(仕方ないんじゃない。動物なんだから)と心でつぶやいた。
そう、農業に完璧はありえない。途中まで完璧にうまくいっていたものが、天候や動物にやられてしまうこともある。今までも、毎年毎年、何回、何十回という失敗を繰り返してきたのだ。だが、失敗を仕方ないこととしないで、毎回深く落ち込み、次こそは必ず成功させてみせるという強い意志が生まれるのも、夫なのだが・・・。
「こういう時にもう一人の"のりゆきさん"が出てきちゃうんだけど、だったら辛いときも、もう一人のお前、がんばってくれよなって言えるんだよなー」と夫はちょっと納得してるようにつぶやいていた(霊感が強いとかではないです)。私は、その言葉を聞いて、ちょっとマジメに、それがこの人の強さかもしれないと思った。自分を客観視すること、自分を励ますこと、それが自分を信じることなんだと思う。しかし、それもここまでいくとどうなんだろうとは思うが・・・。
「じゃあ、その"のりゆきさん"を説得してみるしかないんじゃない?」と私は提案してみた。「そんなのできないよ、夢の中の話なんだから。」いったん否定されたが、最後には「じゃあ、今度"のりゆきさん"がでてきたら、やってみるよ。」ということに落ち着いた。(夫婦漫才ではないんですけどね)(S)
収穫祭のご報告
総勢大人37名、子ども14名になりました。初参加の方も6組来てくださいましたのは、とても嬉しいことでした。大型の台風が接近している中でしたが、降ったりやんだりのお天気で、雨のあいまに収穫作業や畑の案内も無事行うことができました。
子どもも大勢で、元気いっぱい。今、ちょうどツル性の花豆がきれいなアーチを作っていて、トンネルのようになっています。それが何本もあるので、次から次ぎへとトンネルの中を走り回って、大興奮だったようです。ピーマンやキュウリ、なすの収穫作業も、とても楽しかったようです。
今回初めての試みは、㈱シマシステムが提案している「もなむす」を召し上がっていただいたことです。おにぎりの海苔のかわりに、もなかでごはんをはさんで食べてしまう、サクサクとした食感がとても新鮮です。当日は、セルフサービスで「もなむす」を作ってもらい、最後にバーナーでこんがりあぶって、召し上がっていただきました。中でもいちばん喜んでいたのは、ごはん大好きなうちの長男だったかもしれません。
以前、「もなむす」をその場で食べるお店に行ったことがあり、まるでBarのようなおしゃれな雰囲気でした。具も、おにぎりの定番から、イクラ・ふき味噌・鮎のうるか味噌などもあり、心ウキウキします。今後「もなむす」のフランチャイズ展開を考えていらっしゃって、事業提携してくれるところを探しているそうです。ちょっとおなかがすいたとき、こんなお店が近くにあったら、コンビニのおにぎりやハンバーガーより、ココロも体も満足するかもしれません。
佐久市のヒロッシーニさんには、うちの野菜を使って、トウモロコシの冷製スープ(絶品です)と佐久穂町の豚肉を使ったお料理を作っていただきました。同じ野菜を使っていても、プロの味はやっぱり違います。本当にありがとうございました。
三之助(みのすけ)豆腐で有名なもぎ豆腐店さんからは、お豆腐と油揚げの差し入れをいただきました。秋限定の「かぼちゃがんも」に使われているかぼちゃを、ただ今、のらくら農場から出荷しています。ホームページに通信販売、デパートやスーパーなど取扱店ものっていますので、よかったら検索してみてください。お豆腐にオリーブオイルと塩、という新しい食べ方も提案されています。油揚げもぜんぜん油くさくないので、油抜きしないで使えます。なにしろ、お豆腐がとてもおいしいです。
今年は、震災のこともあり、まだまだ不安な中の開催でしたが、収穫祭が単なるお祭りではなく、実際に畑やまわりにそびえる八ヶ岳を見ていただいて、心から安心していただくことができればと思いました。お帰りになった後にも、メールやお電話で感謝の気持ちをいただき、本当にありがとうございました。(S)
放射線の情報
現在、長野県で空間測定と水道水の検査を毎日、野菜の検査を各地で毎週検査しています。今のところ空間はほぼ通常通り、水道水、野菜に関しては不検出です。
受難のとうもろこし
「萩さん、畑がとんでもないことになっている!」と知り合いの農家さんが教えに来てくれました。なんだ、どうした、とトウモロコシ畑に行ってみると、鹿よけネットに鹿の角が絡まったまま大暴れ。4千本くらいのトウモロコシが壊滅してしまいました。猟友会の親方に撃ってもらい、みんなで畑から引きずり出して、軽トラの上で「このやろ、このやろ!」とののしりながら出刃包丁で解体しました。その後、強烈なゲリラ豪雨が降ってこれまたトウモロコシが、千本以上倒伏。く~、なんちゅうこった、今年は。
シカは賞金首がかかっているので、役場にしっぽを持って行くと一万円もらえます。鹿肉は、出荷先のレストランが一万円で買ってくださいました。助かった。賞金と肉代2万円。被害60~70万円くらい。(泣)
酵母の力
ここ4年くらい、酵母菌の肥料を作っている。庭の桑の実から採取した酵母菌は特に強力。酵母菌は病原菌をやっつける力はないけど、先に居座ってしまったら、他の菌が入りにくくなるという「占有力」があるそうな。さらに、植物のミネラル吸収を抜群に良くする。なので、酵母菌でうまくいった畑は、ミネラルがすっからかんになってしまう。きちんと対処して翌年臨まないと、ミネラル欠乏が著しくなってしまう。野菜が良く出来たということは、土のミネラルを吸ってしまったということだからです。
最近、家庭菜園ブームでいろんな菌体肥料が売られている。その年は良く出来たが、年々出来なくなってきたというのは、上記のような理由があるからです。菌は作物の養分吸収を良くしてくれるが、カルシウム、マグネシウム、鉄、など土になければそれを生み出すことは出来ないのです。つまり菌は「錬金術師」ではないということ。
酵母は身近なところではビールやパンに使われています。ビールはシュワシュワと、パンはふっくらと発泡する。土でも同じ作用があるそうです。酵母は地中にもぐりこみ、土の深いところで発泡し、固い土をやわらかくする。酵母を使った畑の土。何年か前まで、棒を刺すと、60センチくらいのところで抵抗があった。今は、2メートルくらいまで、棒がするすると刺さってしまうようになりました。酵母菌すごい。
ニーズ
お客さんのお子さんでアトピーの子がいる。僕も、サラリーマン時代、ひどい食生活で全身ジンマシンの地獄に陥ったことがあるので、かゆみのつらさはよくわかります。その子が、長いもが全く食べられなかったのに、うちの長いもが食べられたと聞いて、僕はとても嬉しくなりました。僕が長いも作りで気をつけているのが、肥料の質です。最終的にシュウ酸カルシウムがあまりない長いもを作るのが目標です。シュウ酸カルシウムは口の周りにつくと痒くなるあの成分です。ここ数年、ほとんど痒くならない長いもが作れるようになりました。
ここで僕が気付いたのが、長いもアレルギーといわれている人は、実は長いもそのものではなく、ナガイモに含まれているシュウ酸カルシウムに反応しているだけではないのかということ。ならば、落花生アレルギーとか、トマトのアレルギーとかいうのも、成分の一部に体に負担のあるものがあって、それだけが問題である可能性がある。これは、研究しだいで改善の可能性が十分あると思います。
今こそ、医療と農業が手を組む時代です。お医者さんが、薬ではなく、質の良い食べ物を処方することがあっていい。それに、国民健康保険が適用されたっていい。もちろん、僕は対処療法というのとても大切に思っている。抗生物質だって場面によってはとても大切だと思う。しかし、もうちょっと食べ物の価値が認められてもいいのかなと思う。食に理解のあるお医者さんと農家が手を組んで、つらい病気に対処できるシステムをなんとか構築できないかと考えています。
亜鉛欠乏が味覚傷害を引き起こします。マグネシウム欠乏とうつ病の関係、マンガン欠乏と子どもを愛せない現象との関係、など次々に食と病気の関係が明らかになっています。うちは、別にお客さんに頼まれたわけではないのですが、そういった微量ミネラルの資材を使っています。これらは恐ろしく高価です。たのまれていないにもかかわらず、使っている理由・・・。それは、世の中の子どもたちのことです。子どもは大人が作った社会で生きるしかない。大人の農家が作った野菜を大人の流通が仕入れ、大人の親が買って、調理して食卓に出る。ここに、子どもの選択肢というものが存在しない。僕は、選択肢ない人がつらいめに会うのが、とてもいやだという理由で、いろんなことをあがいています。
だから、僕はニーズというものを基準に作物を作ることができません。「最近大型野菜は食べきれないから、ミニ型の白菜を作ろう。」とか「この品種はお客さんがおいしいと喜んでくれるから、難しいけど作り続けよう。」などの枝葉の部分はもちろんこたえようと思っています。でも根幹的な部分は生産者がきちんと持っていないとまずいことになると思います。「そんな高価な資材を使わないで、もっと価格を安くしてくれ。」と言われても、そのニーズにこたえることはできない。これは、譲ることのできない生産者としての責務です。
よく、農産物の販売の講習会などで、経営コンサルタントといわれる人が「今の消費者のニーズはこうなっています。」と発表してるのですが、なにしろ、中身が薄っぺらだと感じてしまいます。ニーズなんて「安くて、おいしくて、新鮮で、おしゃれで、いつでもどこでも手軽に、安く」に決まっている。そこから、生産者はどう優先順位をつけるかだと思います。僕は、やっぱり安全とおいしさは譲れないと思っています。それには旬というものがあるから、申し訳ないですが、夏は夏野菜しかないし、冬は冬野菜しかない。価格は、手間もかかるし、質の良い資材は高いのでスーパー並みには安くできたいけれど、できるだけ手に入りやすい価格で・・・。悩みながらの日々です。(N)